地域をエンパワメントする
ソーシャルワーカーでありたい
寺村 育美
浅井東診療所 メディカルソーシャルワーカー
「診療に厚みを」——
その言葉に背中を押され
2021年4月に浅井東診療所に入職し、今年で6年目になります。前職は急性期病院でMSW(メディカルソーシャルワーカー)として働いていました。
MSWとは、医療に特化したソーシャルワーカーです。医療機関に在籍し、患者さんやご家族の話に耳を傾けながら、療養や生活上の課題を一緒に解決していく専門職です。多くは病院に勤務し、患者さんが退院する際の転院先や受け入れ施設の調整、在宅療養の調整を担います。私の仕事もこうした退院調整が中心で、その連携先のひとつが浅井東診療所でした。所長の松井善典先生をはじめとする先生方とは、仕事を通じてつながりがありました。
やりがいは感じていましたが、力不足で期待に応えられない自分に不甲斐なさを感じ、病院を退職し、当時はMSWの仕事にひとまず区切りをつけるつもりでいました。その気持ちを変えたのが、松井先生のひと言です。
「私たちの仲間になって、診療に厚みを持たせてほしい」
この言葉を聞いた瞬間、ハッとしました。「厚みを持たせる」——それは多職種連携の価値を深く理解しているからこそ出る言葉だと思いました。連携を重ねる中で浅井東診療所には「患者さんの思いや暮らしに親身に寄り添ってくれる診療所」というイメージを持っていました。このフィールドでもう一度がんばってみたい。このチャンスに賭けてみたい。そう気持ちが切り替わったんです。
そもそも、診療所にMSWが在籍するのはかなり珍しいケースです。私自身も初めての経験で、「私に何ができるか」と最初は不安でいっぱいでした。
実際に働き始めると、入職前の想像をはるかに超えて、家庭医の先生方が多職種それぞれから見える景色をとても丁寧に受け止めてくださることに気づきました。多職種カンファレンスでは、私はソーシャルワーカーの立場から患者さんの生活に根ざした視点をお伝えすることが多いのですが、家庭医の先生方も看護師の皆さんも、本当に真剣に耳を傾けてくださいます。入職してまず感激したのはそのことでした。

「なにものでもない」
から話しやすい
診療所では、医師や看護師からの依頼を受けて療養中の患者さんを支援することが多いのですが、近年は外部の関係機関からの依頼も増えています。なかでも目立つのが、メンタル面の支援です。不登校の児童・生徒、虐待、DV、生活困窮といった複合的な課題を抱えるご家庭からの相談が相次いでいます。
例えば、こんなことがありました。未就学の女の子がひとりで自宅で過ごしていると近隣住民から通報があり、児童相談所が介入しました。その後、女の子のメンタルケアのために診療所の受診につながりました。私が窓口となり、受診前にまず児相と情報共有の場を設け、ニーズの聞き取りを行いました。受診時は女の子が安心・安全を感じられるよう、待合室で絵本を読んだりゲームをしたりしながらゆっくりと信頼関係を築き、家庭での様子を聴きました。女の子が診察を受けている間は母親と面談し、育児の苦労話や母自身の葛藤を聴いたりしながら、母のメンタルサポートも意識して関わりました。
こうした関わりの中で私が意識しているのは、「話しやすい・相談しやすい存在」でいることです。私はお医者さんのように診断をくだせるわけでも、看護師さんのように注射ができるわけでもありません。患者さんにとって「なにものでもない」からこそ、一番身近で打ち明けやすい立場でいられると思っています。
患者さんは私に話してくださる中で、考えが深まったり、言葉にすることで自分の感情に気づかれたりするのでしょう。私はそこで得た情報をチームにフィードバックし、一緒により良いケアの在り方を探していきます。
このとき感じるのは、家庭医の先生方が良い意味で「普通」の感覚を持ち合わせていることです。「その人らしい暮らしを大切にしたい」という私たちソーシャルワーカーが大切にする価値観を、家庭医の先生方はいわば標準装備されています。その価値観が重なり合い、多くの視点が層のように積み重なるからこそ、診療に自然と厚みが生まれていくのだと感じています。

「なにものにもなれる」
専門職
浅井東診療所のチームの一員に加えてもらえたことを、いまはとても感謝しています。必要とし、必要とされる感覚。家庭医療のフィールドは、私にとってとても居心地がいい。自分の居場所を見つけられた、そんな感覚です。
ソーシャルワーカーという仕事は、人に説明するのがとても難しいんです。「どんな仕事?」と聞かれて具体的な業務内容を伝えることはできても、仕事の本質はなかなか伝わりません。ここに来て、それが少し言語化できるようになりました。
ソーシャルワーカーは、「なにものにもなれる」専門職だと思います。多職種・他機関のあいだに入って情報を発信・共有しやすくする「ハブ役」、医療・介護の専門職がその職能を発揮しやすくなるよう促す「引き出し役」、ケースの進捗を整理する「交通整理役」、患者さんやご家族の思いを代わりに届ける「代弁者役」……。相手が必要とする役割に合わせて自分を自在に変容させる。これはソーシャルワーカーの専門性だと思うんです。単なる便利屋ではなく、関わることでチームに価値を生み出せる存在。そのことを、浅井東診療所のチームのみんなが気づかせてくれました。
そして何よりソーシャルワーカーは人々をエンパワメントする専門職です。私は、患者さんやご家族にとどまらず、関わるすべての人をエンパワメントする存在でありたいと思っています。
支援する側が元気でなければ、患者さんやご家族を幸せにすることはできません。でも、人の心に寄り添う支援の仕事は、疲弊しやすく、燃え尽きやすいという現実があります。だから私は、地域の支援者も元気にしたい。そう考えて、入職2年目から医師、看護師と一緒に、地域包括支援センターのスタッフやケアマネジャー、訪問看護ステーションのスタッフなど地域の支援者を対象にした多職種交流研修会を、年2回開催しています。
研修会では参加者からお悩み事例を募り、みんなで一緒に考える事例検討を行っています。事例を提供してくださった方の背中をそっと押す場にもなっていて、とても温かい時間を共有できています。もともとは地域の支援者に診療所のことを知ってほしいという思いから始めましたが、回を重ねるごとに参加者の皆さんが楽しみにしてくださるようになり、リピーターも増え、いまでは参加者全員で場を創造し、お互いをエンパワメントし合える研修会に育っているように感じています。
活気があって、やさしくて、あたたかい地域になってほしい。この地域に住む人、関わるすべての人が「暮らしてよかった」と感じられる地域にしたい。診療所が地域の拠り所となり、セーフティネットとなり、ここに来るとみんなが元気になれる。診療所を真ん中に幸せの循環が起こるといいな。そう願いながら、これからもこの仕事に向き合い続けていきたいと思っています。


