人材育成と学術の両面で
総合診療の未来をともに
志水太郎
獨協医科大学 総合診療医学講座 主任教授
獨協医科大学病院 総合診療科 診療部長
医師は「現場」でしか
成長できない
獨協総診の設立は2016年です。その2年後から北海道家庭医療学センターとの連携が本格的に始まりました。
そもそも総合診療の研修プログラムは、大学病院の中だけで完結するものではありません。地域の診療所との連携が不可欠です。では、どの施設と連携しようかと考えていたときに、当科のメンバーであり、北海道家庭医療学センターの卒業生でもある榎原剛先生から、「北海道のプログラムはどうか」という話が出ました。
家庭医養成において国内で最も伝統あるプログラムの一つですから、ぜひお願いしたいということで、草場鉄周先生につないでいただき、連携が実現しました。
現在は、専門研修3年間のうち診療所研修の1年間と、総合診療専門医取得後に新・家庭医療専門医の取得を目指す家庭医コースの1年間、北海道の研修サイトで医師を受け入れていただいています。大学病院とは異なる診療所というセッティングで向き合う健康問題、栃木とは歴史や文化、生活背景が違う北海道の患者さんへの対応など、専攻医たちは本当に多くの経験を重ねています。その経験を通して培われるのは、医師としての寛容さや視野の広さです。自分がこれまで見てきた医療や地域だけがすべてではない。そうした気づきは、総合診療医として成長していくうえで非常に大きいと思います。
そして何より重要なのは、指導医の先生方の考え方に触れられることです。草場先生、山田先生をはじめ、先生方には伝統に根ざした家庭医療学の考え方が根底にあります。本当に温かく、同時に的確で、手厚いご指導をいただいています。
専攻医は、日々の診療と振り返りを通して、臨床医として一日一日、一人前になっていきます。やはり医師は、現場でしか成長できないのだと思います。その貴重な機会を提供していただいていることに、心から感謝しています。

学術は、臨床能力を
鍛える力になる
日本の総合診療に、今もっとも必要だと感じているものの一つが「学術」です。
総合診療も医学である以上、学問の立場から「総合診療とは何か」「総合診療の専門性とは何か」を明確にしていく必要があります。さまざまな診療科がある中で、総合診療が確かなアイデンティティを打ち立てていくためには、長期的な視点で学術に投資していくことが非常に重要です。
そして学術は、医師の臨床能力を高めるうえでも大きな力になります。専門研修を通して、医師として身の回りのことができるようになり、患者さんの診療にもある程度一人で対応できるようになる。その段階から、さらに臨床医としてのレベルを上げていこうとするときに、学術が効いてくるんです。
総合診療の研究は、いわゆる試験管を振るような研究ではありません。臨床の現場で患者さんから得られるデータを活用し、そこから問いを立て、考察を深めていくものです。それをもとに論文を書き、査読を受ける過程では、論文の構成力や発想力が客観的に問われます。
そうした訓練は、日々の診療にも確実につながります。例えば、患者さんに対してより丁寧に、筋道立てて説明できるようになる。あるいは、患者さんの病態や何気ない言葉の中から、より多くの可能性に気づけるようになる。自分の診療を論理的に振り返ることで、誤診の可能性を減らすことにもつながります。
非常に堅牢な臨床能力を鍛えてくれるという点で、学術には、それでしか得られない価値があります。ですから、学術と臨床は決して切り離せない。むしろ、総合診療にとって必須のものだと私は考えています。
私たちは大学病院ですから、医師の教育と同時に、研究も非常に重要な使命と捉えています。北海道家庭医療学センターの先生方からも、「論文を見てほしい」といったご相談をいただくことがあります。私自身、症例報告や原著論文の指導に携わらせていただき、北海道からもいくつもの論文がアウトプットされています。
大学病院だからこそできることがあり、診療所だからこそ見えることもあります。学術の面でもさらに連携を深めていくことが、医師一人ひとりの臨床能力を高めると同時に、総合診療全体の学術レベルを底上げすることにつながっていくと信じています。

ともに日本の総合診療の
発展のために
冒頭でも申し上げたとおり、獨協総診は設立の初期段階から、北海道家庭医療学センターの皆さまにたいへんお世話になってきました。専攻医を受け入れていただくだけでなく、家庭医療・総合診療の考え方、教育のあり方についても、本当に多くの刺激をいただいています。
今後も家庭医・総合診療医の育成においては、互いに学び合い、切磋琢磨させていただきながら、短期的・中期的にはこの分野全体の活性化に貢献できたらと思っています。若い医師たちが地域の現場で学び、総合診療の面白さや意義を実感できる機会を、一緒につくっていけるといいですね。
同時に、学術の面でも連携を深めていける余地は大きいと思っています。それぞれのチームが臨床の現場から問いを立て、着実に成果を積み上げていく。その積み重ねが、総合診療の専門性をより明確にし、長期的な発展を支える力になっていくはずです。
これからもお互いの強みを持ち寄りながら、人材育成と学術の両面で協働を続け、日本の総合診療の未来につなげていきたいと考えています。

